2015.03.22 Sunday

黒猫鱗

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つめたいしずくが目に入るから、ぎゅっとまぶたを閉じていた。
ずっと目を閉じていたから、ねこは気づかなかった。
手を差し伸べられていることに。
 
貧しい旅人は、孤独な旅の途中でそのねこに出会った。
ぬかるんだ道を叩きつける雨音だけが響く、暗く年老いた街。
冷たい雨をしのぐため、街の家々の扉は固く閉ざされていた。
 
雨降る街の片隅で、ねこは旅立つ日を待っていた。
子供のころおとなのねこが言っていた、ねこの楽園。
ぽかぽかと、ぬくぬくの、楽園。
ながいながい道のりを歩いて、ねこの楽園を目指すのだ。
 
旅人は厚い雨のカーテンの向こうに、小さな黒い影を見つけた。
震えるふたつの尖った耳。ずぶ濡れの足元にまきつく短いしっぽ。
黒くつややかな毛皮は雨に濡れて、
とげとげしたうろこのようにその小さなからだを包んでいた。
 
ねこは待っていた。雨がやむのを。
ぬかるいだ道が足をとらえ、冷たい雨が体温を奪う。
きっとまだ、今じゃない。
雨がやんだら、ならされた道をしっかり踏みしめて歩いていけばいい。
そう思っていたから、ぎゅっとまぶたを閉じてお日様が戻るのを待った。
 
傘も持たぬ貧しい旅人が、手を伸ばした。
ふるえるちいさなねこに、こちらへおいでと招くように。
せめて彼の胸の中で、雨をしのげるようにと。
でもねこは気づかない。
 
ねこは待った。雨が上がるのを。
その足で道を踏みしめて歩き出せるときがくる時を。
ふわふわの毛皮を、とげとげのうろこに変えて、まんまるな目をしっかりと閉じて。
雨に負けないようにぎゅっと目を閉じて。
 
差し出された旅人の手が宙を泳ぐ。
 
つめたいしずくがめに入るから、頑にまぶたを閉じていたから、気づかなかった。
ねこは、温かい手を差し伸べられてることに気がつかなかった。
 
慎み深い旅人は、静かに歩き去った。また次の街へ。
 
やがて雨が上がった。
おひさまが顔をだし、ぬかるむ道は固く締まった行路となった。
道はきっといつか、ねこをふたたび旅人のもとへ誘う。
 
ねこの黒い毛皮がふわふわに乾いて、
そのベルベットのような背中が優しい旅人の手を受けとめる時まで、
たぶんねこはこの道を歩きつづける。楽園をめざして。
 
2006.03.01 Wednesday

ペンギンが、来た

ペンギン

玄関に気配を感じた。 

 誰かが来た。 サンダルを引っ掛けて、左手で玄関の扉を開けた。 
するとそこにはペンギンが一羽立っている。 

 ペンギンは、そのつぶらな瞳でわたしの姿を確認すると、 
ぷるぷるっと身震いをしてから、くるりときびすを返し、 
ぺたぺたぺた・・・と歩きにくそうに帰っていった。 

 玄関前の私道からコンクリートで舗装された車道沿いの歩道へまがり、 
まあるっこい背中を左右にゆらして、よたよたと帰っていった。 

 ペンギンは、わたしに何かを伝えに来ていた。

 ペンギンは、電話をかけられない。 
自分でダイヤルを回すことも出来ない。 
かけられたとしても、受話器に向かってしゃべることは出来ないのだ。 

 だから、あのいかにも歩行に不向きな鳥類は、 
この遠い道のりを、ただわたしに一言伝えるために、よたよたと歩いてきたのだ。 

 人も車も通行量の多い都会の街を、わたしたちがやるように、ピポパっとダイヤルを回すことなど考えず、 
ただひたすらぺったりぺったり歩いてきたのだ。 

 そのひたむきな姿に、その苦労をいとわぬ野生の強さに、 
なにかとてつもなく大事なことを教えられたのでした。


2005.01.12 Wednesday

夢十夜・その7

7、

わたしの首についた、伸ばしそこねたクリームファンデーションを指で救い、「これは?」といってそれを舐める男。どんな味がするんだろうってぼんやり眺めてたところまでは覚えてる。変な夢。でもすごーく愛されてる感じがした。
2005.01.10 Monday

夢十夜・その5

5、

しばらくして目が覚めた。
部屋の中は薄寒いくらいエアコンが効いている。
夜ベッドに入った時には固く糊の利いていたシーツも、今では私の体の一部のような錯覚を覚えるくらい、私の体温と同調して柔らかく馴染んでいる。

冷たいフローリングの床を裸足で歩いて、壁に掛かった古いエアコンのスイッチを切る。
低く唸っていた器械音が止むと、途端に外の音が室内に流れ込んでくる。
隔離された眠りの部屋は、みるみるうちに朝を飲み込んで外の景色と解け合っていく。

寝ぼけたままカーテンを開くと、一瞬外が真っ白に見える。
深い緑の椰子の木々が、ほぼ真上に昇った太陽の力強い光を、
無遠慮なくらいあちこち無秩序に反射させている。

窓をあけると、まとわりつくような熱気と潮の匂い。
そして引き潮の静かな波の音が一気に流れ込んでくる。

バルコニーに出て、辺りを見回す。
バンガローから砂浜までの道に、夜の間随分たくさんのオオトカゲが往復したらしい、交差する十数本の線と、その左右に無数の小さな足跡が残っている。交差する線は、オオトカゲが重たいシッボを引きずった跡だ。

すっかり乾いた水着を手にすると、お腹が鳴った。
まぁ、ひと泳ぎしてからでも良いだろう。ビュッフェには、濡れたままいけば良い。

朝だ〜。

2005.01.07 Friday

夢十夜・その2

2、

あるところに、温度調節の出来ない男がいました。
凍てつくような寒い外から室内に入っても、
いつもジャケットを着たままなのです。

そんな彼を彼女は落ち着かない面持ちで見つめながら、
お安いマッチポンプに突入する覚悟をきめるのです。

上着を脱がない男は、
いつ何時どのタイミングで飛び出していくか分からない。
女をとっても不安にさせる男なのです。

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